約10日間の応募期間にも関わらず、アセス法(1999年施行開始)に基づく6件の他、閣議了解(1972年)や閣議決定(1984年)アセスが適用され、継続中の古い事業4件、愛知県のアセス条例が適用された1件、事業者が自主的に行ったアセス4件、制度の対象外や適用外である4件、計19事業の応募がありました。
来場者による挙手による得票で最多の「大賞」に「普天間飛行場代替施設」、次点の「怒りの鉄拳賞」に「北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設事業」が、世にも不名誉な受賞をされました。また、環境保全に取り組む市民のプレゼン能力も評価しようと特別にお願いした、クリエイティブ・ディレクターのマエキタミヤコさんの選定により、「上関原発計画」が「プレゼン賞」を受賞しました。
日本のアセス法は、調査に基づいて影響予測・評価を行い、住民や自治体意見を反映して、影響を回避・軽減する制度です。
本コンテストが目指したのは、悪いアセス事例に眉をひそめることに留まらず、そこから学べる教訓を抽出し、アセス制度や運用の改善に結びつけていくことです。もちろん、悪しきアセスは、手続や計画のやり直しがなされるべきところです。
ワーストの競い合いの中では、次のような共通した問題や固有の問題が明らかになりました。
(事業名をクリックするとワースト・アセス・コンテスト実行委員会のウェブサイト上の各事業の配布資料へリンクします。)
◎法、条例、閣議了解、閣議決定アセスの運用の問題点
- 環境影響の過少評価(普天間、トヨタ、上関原発、新石垣空港、諫早湾開門調査、成瀬ダム、徳島道路、高江ヘリパッド、五ヶ山ダム、八ッ場ダム、湯西川ダム、思川開発事業、辰巳ダム、[設楽ダム例:ネコギギ移植実験の失敗にもかかわらず保全できるとした])
- 情報隠しや後出し(普天間、トヨタ、上関原発、設楽ダム、諫早湾開門調査、成瀬ダム、リニア、[高江ヘリパッド例:オスプレイ情報の後出し、新石垣空港例:特別天然記念物のカンムリワシの営巣木が確認されている箇所で設置される航空障害灯や進入灯の記載なし])
- 影響範囲や調査対象の矮小化や欠落(普天間、トヨタ、福岡県営五ヶ山ダム、新石垣空港、諫早湾開門調査、成瀬ダム、リニア、[上関原発例:原子炉建屋の地質調査不足や不都合なボーリング調査結果の隠蔽、設楽ダム例:閉鎖性海域・三河湾が評価対象外])
- 評価における論理性や科学性の欠如(普天間、トヨタ、上関原発、新石垣空港、徳島道路、高江ヘリパッド、八ッ場ダム、湯西川ダム、思川開発事業、辰巳ダム[リニア例:改正法前倒しで配慮書を作成したが、路線が未選定で、比較検討ができない])
- 住民参加機会や意見反映が欠如・不十分(普天間、設楽ダム、新石垣空港、諫早湾開門調査、徳島道路、高江ヘリパッド、五ヶ山ダム、八ッ場ダム、湯西川ダム、思川開発事業、辰巳ダム[トヨタ例:開発を中止するか代替地での開発を提案しているものがほぼ99%であったに関わらず評価書には全く反映されていない]]
- 地方公共団体の役割の欠如(上関原発、設楽ダム、[トヨタ例:絶滅危惧種が多く生息する森を、レッドデーターブックを作った愛知県自らが開発])
- 環境省の役割の欠如(普天間、トヨタ、設楽ダム、諫早湾開門調査、高江ヘリパッド、[上関原発例:温排水拡散について、正しい見識を持っているのか疑問])
- 評価の実施時期(リニア例:構想段階で事業許可をする国交省の検討委員会(交通政策審議会小委員会)では、環境面から判断しなかった)。
- 調査費用が不適切(普天間)
- 手続、調査会社の客観性の欠如(普天間、上関原発、設楽ダム、[新石垣空港例:県委託でコウモリ類の調査をした団体の理事長が、コウモリ類への影響や保全策等を事業者である沖縄県に助言するコウモリ類検討委員会の副委員長に就任]、[成瀬ダム例:調査当時のフィールドノート、踏査ルート図を紛失した調査会社を、追加調査で変更しなかった]、[高江ヘリパッド例:事業目的にオスプレイ配備と軍事演習を明記せずませるために「自主アセス」としたと疑われ、客観性は担保されていない]、リニア例:調査とりまとめは事業者の子会社(JR 東海コンサルタント)が実施])
- 手続中に事業が進捗(普天間、上関原発)
◎裁判が提起されている
- 手続やり直し義務確認請求、公金差し止め住民訴訟等(普天間、設楽ダム、新石垣空港、八ッ場ダム、湯西川ダム、思川開発事業、辰巳ダム、[諫早湾開門調査例:すでに常時開門の判決が確定し、制限開門について本来は検討する必要なし]、[上関原発例:生き物の原告適格性を否定された]、[高江ヘリパッド例:建設に反対する住民を国が通行妨害で訴えた「スラップ訴訟」もある])
◎制度の問題、どのようにすればよりよいアセスになるかについての指摘
- 周辺の複数開発事業との複合的な影響評価の欠如:(普天間、[徳島道路例:河口域に、複数の大型事業(2本の道路橋建設、人工海浜建設)が集中])→複数の管理者の縦割り・横割り行政を融合すべき。
- 重要な地域の保全:生物多様性保全上重要な地域に関しては、事業の規模にかかわらずアセスを実施する。重要な地域とは、自然公園法等に基づくものに限定せず、自治体の条例や指針、民間の研究成果も含める。
- 代替地、ゼロオプション:戦略的アセスメントを法制化する必要がある。
- 環境影響評価の実施時期:事業実施地域の住民等がもっとも地域特性等を知っており、利害関係も深いことから、計画時からすべての情報を開示し、時間をかけて環境影響を回避することを検討すべき。結果次第では止めるという白紙状態での取り組みとすべき。
- 対象事業種、事業規模の限定性:(東京大学西東京キャンパス整備計画、[高江ヘリパッド例:直径45mの規模、位置から、沖縄県アセス条例の対象とすべきだが、自主アセスだった]、[最上小国川ダム例:湛水面積28haで大賞規模要件以下だが、アユ漁獲や釣りへ影響で経済効果10億円損失の予測あり]→アセスの対象事業種、事業規模の見直し。(軍事基地の建設も対象に加え、供用後の訓練、演習の内容、軍用機、車両、兵員、武器、他の基地との移動等もアセスの対象に含める(現行の指針等でもできないことはないが、より厳密化する)等)。→改善の必要性
- 事業者の倫理:非常識な時間帯、方法で書類提出、調査会社の客観性。→改善の必要性
- 専門家の役割:自治体の審査会等の第三者性の確保、氏名を公開し責任を取る専門家の関与。
- アセス法制定以前の古い計画における閣議アセス:[八ッ場ダム・湯西川ダム・利根川水系思川開発事業・犀川総合開発事業辰巳ダム例:住民・自治体意見の記述がない。アセス実施後、長期が経過。当時の状況が不明。膨大な調査データが蓄積されるが、考察や影響予測はされていない]→社会状況も変わり、データが古くなっていることから、再度アセスを実施する必要がある。
- 罰則:アセス逃れその他、アセスを正当に行わないものに対して罰則を設ける。
- アセスの以前の必要性検討:政策決定過程で必要性に関する十分な検討が不可欠。(八ッ場ダム、湯西川ダム、利根川水系思川開発事業、犀川総合開発事業辰巳ダム、徳島道路例:交通計画のアセスメント自体に大きな問題があり、道路の利用需要の予測および費用対効果の十分な検証が必要)
上記の他、事業者が事業地を入手していない段階で、知事が上関原発を「国のエネルギー基本計画」へ位置づけることに同意したアセス以前の問題や、沖縄県で知事が異論を唱える事業(普天間飛行場代替施設)と推進する事業(新石垣空港)では知事のアセスへの対応に差違があるとの指摘や、国交省令で影響範囲を根拠不明のままダム湛水範囲の3倍長としている(設楽ダム)など事業種固有や地域固有の問題も指摘されました。
アセス法は、方法書手続、準備書手続、評価書手続の他、2011年改正法により配慮書手続が加わります。具体的な手続が施行令、省令等で決まるため、その仕組みは複雑で一般には馴染みがなく、適用される事業種も規模も限定的である上、制度への関心も期待値も低く、指摘・改善されるべき問題が顕在化しにくいという課題がありました。
しかし、本コンテストの実施により、事業横断的および固有の問題が浮かび上がってきました。ワースト・アセス・コンテスト実行委員会としては、これらの課題をより分かりやすくして、政策決定者、関係学会、ステークホルダー、報道関係者および一般市民に共有し、さらなる改正を目指したいと考えています。